介護現場のDXは、どこまで進んだのか。そして、進めた結果どうなったのか。
アイメトリカは、介護労働安定センターと厚生労働省が公表しているデータから、介護業界のICT・テクノロジー導入の現状を整理しました。見えてきたのは、「導入率」と「効果の実感」のあいだにある差です。

調査の方法

  • 導入状況・導入効果:介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」
    (調査基準日 令和6年10月1日/事業所調査 回収9,044件・回収率52.9%)
  • 国の現状認識・施策:厚生労働省老健局「テクノロジー等を活用した介護現場における生産性向上の重要性とその施策について」

結果1:記録系のソフトは75.4%まで普及した

「日常的に利用している」機器の種類を見ると、最も普及しているのは記録系です。

  • 利用者情報(ケア記録・ケアプラン等)の入力・保存・転記の機能 75.4%
    パソコンによる介護ソフトは、各サービス系型で広く利用されています。

一方、それ以外の機器はサービスの形態によって大きく異なります

サービス系型よく使われている機器利用割合
訪問系タブレット端末・スマートフォンでの利用者情報の入力56.6%
施設系(入所型)ベッドセンサー(マット型・内蔵型)70.1%
居住系ベッドセンサー(マット型・内蔵型)41.7%

訪問系はモバイル端末による記録、施設系・居住系はセンサー機器と、抱えている課題の違いがそのまま導入する機器の違いになっています

結果2:効果を実感しているのは、約半数

導入した機器の効果について、「効果がある」と「やや効果がある」を合わせた割合です。

  • 昼間の業務負担の軽減 49.4%
  • 夜間の業務負担の軽減 44.6%

約半数の事業所が効果を認めています。裏を返せば、残る半数は、導入しても負担軽減を実感できていないということです。

結果3:国も「普及しているとは言えない」と認めている

厚生労働省の資料には、次の記載があります。

  • 「デジタル技術の導入支援や相談窓口の設置など様々な支援を行っており、生産性向上が進む事業所がある一方で、取組が幅広く普及しているとは言えない状況である。

同じ資料では、現状の事業所を次の段階に分けて整理しています。

  • 取組が進んでいない事業所
  • デジタル等を単に導入している事業所
  • 生産性向上の取組が進んでいる事業所
  • 先進的な事業所

注目すべきは「デジタル等を単に導入している事業所」という区分が、国の資料に明記されていることです。導入したことと、成果が出ていることは、行政の整理においても別物として扱われています。

分析1:導入率と効果実感の差は、25ポイント以上ある

記録系ソフトの利用は75.4%。しかし業務負担の軽減に効果があるとした事業所は49.4%(昼間)です。25ポイント以上の差があります。

導入しただけでは負担が減らない。この差が、介護DXの実像を示しています。

分析2:なぜ「入れたのに変わらない」が起きるのか

データからは差の存在までしか分かりません。ただ、私たちが現場に伺うなかで繰り返し聞くのは、次のような声です。

  • 現場の課題と、DXツール側が描く理想が噛み合っていない
    ツールは「こう使えば効率化できる」という前提で作られていますが、その前提が現場の実際の動き方と違っている。
  • 補助金が出るから、とりあえず導入した
    制度を活用できるうちに、と導入を決めたものの、現場で本当に必要としていた機能ではなかった。
  • 導入後に「もう少しこうしたら便利」を伝えて改善する仕組みがない
    使ってみて初めて分かる改善点を持ち込む先がなく、不便なまま使い続けるか、使わなくなる。
  • 設定項目が多すぎて、使いこなす前に諦めてしまった
  • 紙の帳票が別に残り、二重入力になった
  • 画面の言葉が現場の呼び方と違い、入力に迷う

いずれも機器の性能ではなく、現場の手順との噛み合わせの問題です。汎用のシステムを持ち込んで当てはめようとすると、こうした摩擦が残ります。

とりわけ3つ目は根が深いと感じます。導入は「完成品を納める」一回きりの取引として設計されがちですが、現場で使われ始めてからが本番です。改善を持ち込める相手がいるかどうかで、同じツールでも結果が変わります。

分析3:夜間のほうが効果を実感しにくい

昼間49.4%に対し、夜間は44.6%と4.8ポイント低くなっています。夜勤は人員が限られ、記録よりも見守りや急変対応の比重が高い時間帯です。

記録系のソフトが普及しても、夜間に本当に必要な「異変への気づき」を支える仕組みは、まだ行き渡っていないと読み取れます。

この調査から見えること

介護DXは「入れるかどうか」の段階を過ぎ、「入れた結果どうなったか」が問われる段階に入っています。記録ソフトは75.4%まで普及し、国も導入支援から生産性向上の評価へと施策の重心を移しています。

それでも効果を実感できているのは約半数です。この差を埋めるために必要なのは、より高機能な製品ではありません。現場の手順を見て、何を作らないかを決め、使われ方を見ながら直し続けることです。

それは製品を納めて終わる関係では実現できません。導入したあとも一緒に考え、変化に合わせて手を入れ続ける相手が必要です。信頼できるテクノロジーパートナーを持てるかどうかが、介護DXの成否を分ける時代になっています。

アイメトリカは、AIから業務システム、それを動かすサーバーまでを自社で開発し、介護事業者の皆さまと共同でシステムを作っています。現場を見せていただくところから始め、届けた後も育て続けることを基本姿勢としています。

出典

本記事の数値は、上記の公表資料を2026年8月2日に取得し、当社が整理したものです。
「分析2」に挙げた現場の声は統計値ではなく、当社が業務のなかで伺った内容です。